再生医療について調べていると、「骨髄由来」「脂肪由来」「臍帯(さいたい)由来」「自家」「他家」といった言葉が次々に出てきて、違いが分かりにくいと感じたことはありませんか。これらは、治療に使う幹細胞の“出どころ”や“提供の仕方”を表す分類です。
種類を理解しておくと、医療機関の説明を正しく受け取り、自分に合った選択を考える助けになります。この記事では、幹細胞の種類とその違いを整理します。
この記事でわかることは、次の3つです。
- 幹細胞治療で使われる「間葉系幹細胞」とは何か
- 骨髄由来・脂肪由来・臍帯由来の違い
- 「自家」と「他家」の違いと、種類の選び方
なお、再生医療全体の仕組みや位置づけについては、「脳梗塞に対する再生医療(幹細胞治療)とは?」で解説しています。あわせてご覧ください。
そもそも「間葉系幹細胞(MSC)」とは

幹細胞治療で中心的に使われるのが、間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cell、略してMSC)と呼ばれる細胞です。MSCは、少なくとも骨・軟骨・脂肪の3種類の細胞に分化できることが特徴とされ、これが他の細胞と見分ける目安の一つになっています。さらに、神経細胞などへ分化する可能性も報告されています。
MSCが注目されるのは、単に別の細胞に変化できるからだけではありません。傷んだ組織や炎症のある場所に集まる性質(ホーミング)、免疫の働きを整える作用(免疫調整能)、さまざまな生理活性物質(サイトカイン)を分泌して周囲の修復を後押しする働きなど、複数の特徴を併せ持つとされています。加えて、体のさまざまな組織から採取でき、増殖能が高いことも、治療に用いやすい理由です。
ただし、こうした働きのどこまでが実際の症状改善につながるのかは、疾患ごとに研究が続けられている段階です。
幹細胞は「採取する場所」で分けられる

間葉系幹細胞は、体のいくつかの組織から採取できます。代表的なのは、骨髄・脂肪・臍帯(へその緒)で、このほか歯髄や胎盤・羊膜などからも採取が可能です。
同じMSCでも、どこから採ったかによって、採取のしやすさ、増殖のスピード、期待される働きなどに違いがあると報告されています。脳梗塞の再生医療で主に用いられるのは、患者さん自身から採取する「骨髄由来」と「脂肪由来」です。
骨髄由来と脂肪由来の違い
どちらも患者さん自身から採取する点は同じですが、性質にいくつかの違いがあります。
骨髄由来間葉系幹細胞
腰の骨(腸骨)から骨髄液を採取します。採取そのものは、皮膚を数ミリ切開して専用の器具で行われ、培養して十分な数まで増やすのに、およそ1か月かかるのが一般的です。神経系の細胞へ分化する能力が高いとされる一方、採取にはやや侵襲を伴い、培養にも高い技術が求められます。造血幹細胞移植の際に補助的に用いられてきた歴史もあります。研究の蓄積がある細胞です。
脂肪由来間葉系幹細胞
おなか周りの皮下脂肪から採取します。へその周辺を数ミリ切開し、米粒数個分ほどのごく少量の脂肪を取り出すだけで済むため、体への負担が小さいのが特徴です。採取が比較的容易で、増殖能や免疫調整能に優れるという報告があり、まとまった量を確保しやすい利点もあります。近年、利用しやすい幹細胞として注目を集めています。
一言でまとめると、骨髄由来は「神経系への分化能で注目される細胞」、脂肪由来は「採取のしやすさと扱いやすさで注目される細胞」と整理できます。どちらが優れているかを一律に決められるものではなく、状態や方針に応じて選ばれます。
「自家」と「他家」という、もう一つの分け方

幹細胞には、採取する場所とは別に、「誰の細胞を使うか」という分け方もあります。
「自家(自己)」は、患者さん自身の細胞を使う方法です。自分の細胞なので拒絶反応のリスクが低いことが大きな利点で、脳梗塞の骨髄由来・脂肪由来の治療はこれにあたります。一方、「他家(同種)」は、ドナー由来の細胞を使う方法です。臍帯由来などがこれにあたり、採取の負担が患者さんにかからないことや、若く増殖性の高い細胞を確保しやすいことが特徴です。
ここで重要なのが、法的な扱いの違いです。患者さん自身の体性幹細胞を使う自家の治療は「第二種再生医療等」に分類されます。これに対し、他人(他家)の細胞を使うものは、よりリスクが高いと想定される「第一種再生医療等」に分類され、より厳格な手続きが求められます。この分類はあくまで安全上のリスクに応じたもので、効果の優劣を示すものではない点に注意してください。
どの幹細胞が使われるかは何で決まるのか
使用する幹細胞は、後遺症の状態、全身状態、年齢、そして医療機関の治療方針や、その医療機関が届け出ている提供計画の内容によって決まります。「この種類が絶対に良い」という唯一の正解があるわけではありません。
だからこそ、医療機関を検討する際は、なぜその幹細胞を用いるのか、その根拠を説明してもらえるかどうかが、一つの判断材料になります。
種類による効果の違いはあるのか

もっとも気になる点かもしれません。しかし、正直にお伝えすると、幹細胞の種類による効果の違いを一律に断言できるだけのエビデンスは、現時点では確立していません。動物実験や臨床研究の報告はあるものの、脳梗塞の後遺症に対してどの種類がどれだけ有効かは、なお検証が続けられている段階です。
「〇〇由来だから必ず効く」といった説明には、慎重に向き合うことが大切です。
まとめ
幹細胞治療で使われる間葉系幹細胞は、採取する場所(骨髄・脂肪・臍帯など)と、誰の細胞を使うか(自家・他家)で分類されます。脳梗塞の再生医療では、患者さん自身から採る自家の骨髄由来・脂肪由来が主に用いられ、いずれも第二種再生医療等に分類されます。
種類ごとに特徴の違いはありますが、効果の優劣を一律に決められるものではありません。医療機関がなぜその種類を選ぶのか、根拠とともに説明を受けたうえで、主治医とも相談しながら検討することをおすすめします。
よくある質問(FAQ)
Q. 結局、どの種類の幹細胞が一番良いのですか? A. 一律に「これが最も良い」と言える種類はありません。骨髄由来・脂肪由来にはそれぞれ特徴があり、後遺症の状態や全身状態、医療機関の方針によって選ばれます。効果の優劣を断定する説明には慎重に向き合いましょう。
Q. 若い人の細胞(臍帯由来など)のほうが効果は高いのですか? A. 臍帯由来など幼若な細胞は増殖性が高いと報告されていますが、それが脳梗塞の後遺症への効果の高さを意味するわけではありません。また他家の細胞は第一種再生医療等にあたり、手続きの枠組みも異なります。
Q. 自分の細胞(自家)と他人の細胞(他家)、どちらが安全ですか? A. 自家は自分の細胞のため拒絶反応のリスクが低いのが利点です。他家は採取の負担がない一方、より慎重な安全管理が求められる区分に分類されます。どちらにも特徴があり、医療機関の説明をよく確認することが大切です。
Q. 幹細胞は点滴で全身に入れるのですか? A. 脳梗塞の再生医療では点滴(静脈投与)が用いられることが多いですが、治療内容によって投与方法は異なります。詳しくは「再生医療の治療の流れ」をご覧ください。
Q. 細胞の採取は痛いですか?体への負担は大きいですか? A. 脂肪由来の場合はへその周辺を数ミリ切開して少量を採取するため、負担は比較的小さいとされます。骨髄由来は腸骨から採取するため、脂肪由来よりやや侵襲を伴います。いずれも採取に伴う出血・感染などのリスクがあるため、事前に医療機関で十分な説明を受けてください。
Q. 投与する幹細胞の数(細胞数)は、多いほど効果が高いのですか? A. 「細胞数が多いほど効果が高い」と単純に言えるだけの根拠は、現時点で確立していません。細胞数の多さを強調する説明があっても、それだけで効果や安全性が保証されるわけではない点に注意してください。適切な投与量は医療機関の提供計画に基づいて判断されます。
出典・参考資料
- 再生医療等の安全性の確保等に関する法律(平成25年法律第85号)/厚生労働省「再生医療等の安全性の確保等に関する法律について」(リスク分類)
- 再生医療ポータル(日本再生医療学会)
- 各種学術資料(間葉系幹細胞の分化能・特性に関する一般的知見)
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の治療の効果を保証したり、受診を勧誘したりするものではありません。個別の診断・治療方針については、必ず医療機関にご相談ください。



