脳梗塞の後遺症の種類

ご家族が脳梗塞になり、「これからどんな後遺症が残るのだろう」「日常生活に戻れるのだろうか」と不安を感じていませんか。脳梗塞の後遺症は、手足の麻痺のように目に見えるものだけではなく、周囲から気づかれにくいものまで多岐にわたります。

この記事でわかることは、次の3つです。

  • 脳梗塞の後遺症にはどんな種類があり、それぞれどんな症状が出るのか
  • 脳のどの部位が傷つくと、どんな後遺症が出やすいのか
  • 後遺症の重さを左右する要因と、回復の一般的な見通し

正確な情報を知ることは、ご本人・ご家族が落ち着いて次の一歩を選ぶための土台になります。


脳梗塞の後遺症はなぜ起こるのか

脳梗塞は、脳の血管が詰まって血流が途絶え、その先にある脳の細胞が酸素や栄養を受け取れなくなって傷ついてしまう病気です。脳の各部位は「手足を動かす」「言葉を話す」「記憶する」といった役割を分担しているため、傷ついた部位が担っていた機能に障害が残ります。これが「後遺症」です。

脳梗塞は決してまれな病気ではありません。厚生労働省「患者調査」(令和5年/2023年)によると、脳梗塞を含む脳血管疾患で治療を受けている総患者数は約188万人にのぼります。また同省「国民生活基礎調査」(令和4年/2022年)では、介護が必要となった主な原因のうち脳血管疾患(脳卒中)は第2位(19.0%)を占めており、後遺症が生活に与える影響の大きさがうかがえます。

一方で、後遺症は「必ずそのまま固定されるもの」ではありません。適切なリハビリテーションによって改善が期待できる部分も多くあります。まずは、どんな後遺症があり得るのかを知ることから始めましょう。

脳梗塞の後遺症の主な種類

後遺症の現れ方は一人ひとり異なりますが、代表的なものを整理すると以下のようになります。

運動麻痺(片麻痺)

もっとも代表的な後遺症です。多くの場合、傷ついた脳と反対側の半身に麻痺が生じます(片麻痺)。手足に力が入らない、思うように動かせない。発症からしばらく経つと、今度は筋肉が突っ張る「痙縮(けいしゅく)」が現れることもあります。

回復の段階は、臨床では「ブルンストローム・ステージ」という6段階の指標で評価されるのが一般的です。手足がまったく動かせない段階(ステージⅠ)から、ほぼ思い通りに動かせる段階(ステージⅥ)まで、どの位置にいるかを把握しながらリハビリを進めます。歩行やバランス、ボタンをかけるような細かな動作まで、影響の範囲は人によって大きく異なります。

感覚障害(しびれ・感覚の鈍さ)

麻痺と同じ側に、触った感覚・痛み・温度・手足の位置の感覚などが鈍くなったり、逆にしびれや痛みとして異常に感じられたりすることがあります。見た目には分かりにくく、本人にしか自覚できないつらさを伴う場合があります。

言語障害(失語症・構音障害)

言葉に関わる後遺症には大きく2種類あります。「失語症」は、言葉を理解する・話す・読む・書くといった言語機能そのものが障害された状態です。一方「構音障害」は、言葉の理解はできるものの、口や舌などをうまく動かせず発音がしづらくなる状態を指します。

高次脳機能障害

外見からは分かりにくいものの、生活への影響が大きい後遺症です。厚生労働省・国立障害者リハビリテーションセンターの定義では、脳損傷に起因する認知障害を広く指し、いわゆる巣症状としての失語・失行・失認のほか、記憶障害・注意障害・遂行機能障害・社会的行動障害などが含まれます。

  • 記憶障害:新しいことを覚えられない、少し前のことを忘れてしまう
  • 注意障害:集中が続かない、複数のことを同時に処理できない
  • 遂行機能障害:各動作はできても、段取りを立てて効率よく行動することが難しい
  • 社会的行動障害:感情のコントロールが難しい、意欲が低下する
  • 失行:動作の手順が分からなくなる(例:道具の使い方が分からない)
  • 失認:見えていても、それが何かを認識できない

心臓にできた血栓が脳の太い血管を詰まらせる「心原性脳塞栓症」では、こうした高次脳機能障害を伴い、重篤になりやすいことが知られています。

嚥下障害(飲み込みにくさ)

食べ物や飲み物をうまく飲み込めなくなる後遺症です。食事量の低下による低栄養や脱水のほか、食べ物が誤って気管に入る「誤嚥」から誤嚥性肺炎を引き起こすこともあり、注意が必要です。

視野障害

視力そのものは保たれていても、視野の一部が欠ける(半盲など)ことがあります。片側が見えにくくなり、歩行時にぶつかりやすくなるなどの影響が出ます。

排尿障害・精神症状

トイレのコントロールが難しくなる排尿障害のほか、意欲の低下や、脳梗塞後のうつ状態といった精神面の症状が現れることもあります。

損傷部位によって後遺症は変わる

同じ脳梗塞でも、脳のどこが傷ついたかによって出やすい症状は異なります。おおまかな傾向は次の通りです。

損傷部位出やすい主な症状
左脳(左大脳半球)右半身の麻痺・感覚障害、失語症(言葉の障害)
右脳(右大脳半球)左半身の麻痺・感覚障害、半側空間無視、空間認識の障害
脳幹めまい、ものが二重に見える(複視)、顔と体で異なるしびれ、嚥下障害
小脳歩行のふらつき、手の震え、運動のぎこちなさ(運動失調)

特に右脳の損傷で起こりやすいのが「半側空間無視」です。視力に問題がないのに、片側(多くは左側)の空間に気づけなくなります。食事で左半分のおかずを残す。左側の壁やドアにぶつかる。そんな形で現れます。右半球が損傷したケースで頻度が高く、報告によっては右脳卒中の患者さんの8割前後にみられるともされ、左脳損傷での出現は比較的少ないとされています。

後遺症の重さを左右する要因

後遺症がどの程度残るかを分けるのは、主に3つの要素です。まず、梗塞が起きた部位と範囲。重要な機能を担う場所ほど、また範囲が広いほど、影響は大きくなります。次に、発症から治療までの時間。脳の血流が途絶えている時間が短いほど、細胞のダメージを抑えられます。そして、リハビリを始めるタイミングです。発症早期にリハビリを開始することで、機能や日常生活動作の改善につながることが知られています。

つまり、時間が鍵を握ります。「おかしい」と感じたらためらわず救急要請する——それが、後遺症を最小限に抑える最初の一手です。

後遺症は改善するのか?回復の一般的な見通し

脳梗塞の経過は、大きく「急性期(発症〜おおむね2週間)」「回復期(発症から数か月)」「生活期(慢性期)」に分けて考えられます。この時期の分け方には理由があります。回復のスピードが、時間の経過とともに変わっていくからです。

厚生労働省の資料では、脳卒中後の運動機能はおおむね発症から3〜6か月までに顕著に回復し、それ以降は変化が緩やかになる傾向があるとされています。改善が最も大きいのは発症後の数週間で、3か月ごろに比較的落ち着き、6か月を過ぎると自然回復のペースはゆるやかになる、というのが一つの目安です。一方、言語機能などは1年を経過してから徐々に改善していく傾向も示されています。

この「回復期」に集中的なリハビリを担うのが、回復期リハビリテーション病棟です。脳血管疾患の場合、入院してリハビリを受けられる期間には制度上の上限があり、原則として発症から150日以内(高次脳機能障害を伴う重症例などでは180日以内)とされています。限られた期間をどう使うかが、その後の生活を大きく左右します。

なお、後遺症による生活への支障の程度は、臨床では「modified Rankin Scale(mRS)」という0〜6の指標で表されることがあります。0は症状がまったくない状態、数字が大きくなるほど介助の必要性が高まる、という見方です。ただし、これはあくまで一般的な傾向であり、回復の経過には個人差があります。回復期・生活期(慢性期)それぞれの過ごし方については、別記事「【内部リンク:脳梗塞の後遺症はどこまで回復する?回復期と生活期の違い】」で詳しく解説しています。

後遺症に対する新しい選択肢

これまで、脳梗塞の後遺症に対してはリハビリテーションが中心的な役割を担ってきました。近年ではこれに加えて、再生医療(幹細胞治療)が新たな選択肢のひとつとして研究・提供されるようになっています。

再生医療の仕組みや対象、現在の位置づけについては、「【内部リンク:脳梗塞に対する再生医療(幹細胞治療)とは?】」で詳しく解説しています。治療を検討される際は、内容やリスク・費用を正しく理解したうえで、医療機関に相談することが大切です。

まとめ

脳梗塞の後遺症には、主に次のような種類があります。

  • 運動麻痺(片麻痺)
  • 感覚障害
  • 言語障害(失語症・構音障害)
  • 高次脳機能障害(記憶・注意・遂行機能・社会的行動・失行・失認など)
  • 嚥下障害
  • 視野障害
  • 排尿障害・精神症状

出やすい症状は損傷部位によって異なり、後遺症の重さは梗塞の部位・範囲や治療までの時間などに左右されます。まずは症状を正しく理解し、早期のリハビリや適切な相談につなげることが、その後の生活を支える第一歩になります。

よくある質問(FAQ)

Q. 脳梗塞の後遺症は治りますか?完治は望めますか?

A. 一度死んでしまった脳細胞を完全に元通りにするという意味での「完治」は、現在の医学では難しいのが実情です。ただし、それは「もう良くならない」という意味ではありません。早期の治療と継続的なリハビリによって、機能の大幅な改善や生活の質の向上を目指すことは十分に可能です。「治す」よりも「後遺症とどう付き合い、できることを増やしていくか」という視点が回復の助けになります。

Q. 後遺症は必ず残りますか?

A. 必ずしも残るとは限りません。梗塞が小さく、早期に治療できた場合には、ほとんど残らないこともあります。一方で、範囲が広い場合や治療が遅れた場合には、何らかの後遺症が残ることが少なくありません。

Q. 見た目には元気そうなのに、生活に支障が出るのはなぜですか?

A. 記憶障害や注意障害などの高次脳機能障害は、外見からは分かりにくい後遺症です。歩けて話せていても、段取りが立てられない、集中が続かないといった困りごとが起こります。周囲から理解されにくいため、ご本人・ご家族が「見えにくい障害」の存在を知っておくことが助けになります。

Q. 退院して家に戻ってから、新しい後遺症に気づくことがあるのはなぜですか?

A. 高次脳機能障害は、入院中の限られた環境では表面化しにくく、退院後に日常生活へ戻ってから初めて気づかれることが少なくありません。買い物や家事、仕事など複雑な場面が増えて、困りごととして現れるためです。気になる変化があれば、早めに主治医や専門職に相談してください。

Q. 家族として、後遺症のある本人にどう接すればよいですか?

A. できること・できないことをよく理解し、行き過ぎない適切なサポートを心がけることがポイントです。たとえば言葉が出にくい方に対して、過度な励ましや「どうして話せないの」といった問いかけは、かえって本人のストレスになることがあります。焦らせず、本人のペースを尊重する関わりが回復を支えます。


出典・参考資料

  • 厚生労働省「令和4年(2022)国民生活基礎調査の概況」(介護が必要となった主な原因)
  • 厚生労働省「令和5年(2023)患者調査の概況」(脳血管疾患の総患者数)
  • 厚生労働省「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン 参考資料(脳卒中に関する留意事項)」(回復経過に関する記載)
  • 厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部/国立障害者リハビリテーションセンター「高次脳機能障害」診断基準・定義
  • 診療報酬「別表第九 回復期リハビリテーションを要する状態及び算定上限日数」(回復期リハビリテーション病棟入院料の算定上限日数)
  • 日本脳卒中学会「脳卒中治療ガイドライン」

※ブルンストローム・ステージ、modified Rankin Scale(mRS)は、脳卒中領域で広く用いられる評価指標です。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の診断・治療方針を示すものではありません。症状や治療については必ず医療機関にご相談ください。

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